本組合 厚生労働省・小林謙二「足場からの墜落防止措置効果検証・評価委員会」座長に公開質問状

お知らせ
2010(平成22)年10月8日

平成22年10月7日

厚生労働省労働基準局

安全衛生部長

平野 良雄様

「足場からの墜落防止措置の

効果検証・評価委員会」座長

小林 謙二様

全国仮設安全事業協同組合

理事長 小野 辰雄

急増している墜落死亡災害

(平成22年7月7日現在対前年比46%アップ)

に関する公開質問状

―憲法に謳う「命の人権」をどうする!! 労働行政―

本組合は、平成12年の設立以来、ひたすら「墜落災害の撲滅」を目指し、ハード・ソフト両面に亘る速やかなる省令改正を貴省に対し要望してまいりました。しかしながら、幾度となく行った要望に対し貴省からは明確な回答は一切なく、全面的な省令改正は未だ実現を見るに至っておりません。

振り返って、これまでの貴省は雇用者側の意見を重視し過ぎてきたと考えます。危険な職場で働く建設職人の「命の人権」をもっと考えていく方向に視点を転換していくべきではないでしょうか。

しかし、事態は一刻の猶予もありません。

そこで、今回、国会で取り上げていただくことを前提に、質問と回答のやり取りを公にすることとし、公開質問状を提出することといたしました。つきましては、下記の「今回、敢えて公開質問状を提出するに至った背景」を踏まえ、以下の質問について真摯にご検討の上、文書にてご回答を賜りたく宜しくお願い申し上げます。

「今回、敢えて公開質問状を提出するに至った背景」

・    一昨年、1年半10回に亘って開催された「足場からの墜落防止措置に関する調査研究会」(メンバー21名で構成)からしっかりした墜落防止対策の結論が示され、それに沿って昨年、省令の一部改正が行われ、「より安全な措置」として安全衛生部長通達が発出されたにも拘らず、今回新たに「足場からの墜落防止措置の効果検証・評価委員会」が設置され、内容的には再び振り出しに戻った堂々巡りの審議が進められている。しかし、今更審議の必要はなく、上述したようにしっかりした墜落防止対策は既に決まっている。要は、対策を如何に実効あらしめるかである。今や、通達行政の限界は明確である。安全衛生部長通達内容の速やかなる全面的な省令化が求められている。しかも、「速報」によれば、平成22年7月7日現在の墜落死亡災害は対前年比で46%もアップしている。徒に時間を空費すべきではない。

・    毎年都道府県労働局によって行われる一斉現場監督指導の結果、現場の約50%は労働安全衛生法令違反、そのうち約50%は墜落防止措置違反という状況が判を押したように繰り返えされている。こうした無法地帯の常態化を放置している官の存在は一体何なのか。

・     本年7月7日現在の墜落死亡災害が対前年比46%アップと急増していることを踏まえ、労働基準局長から関係業団体に対し緊急要請の通達が発出された。しかし、問題は急増の原因である。建設現場においては、昨年の改正省令も安全衛生部長通達も殆ど遵守されず、墜落防止措置が徹底されなかったのである。これは通達行政の限界を物語るものであり、今や取り組むべきは安全衛生部長通達内容を直ちに全面的に省令化することである。ところが、貴省は相変わらず通達による緊急要請で事を済まそうとしている。これでは、通達行政の堂々巡りであり、何らの解決策にもなっていない。

質問① 墜落死亡災害の「起因物」として「屋根等」「がけ等」は「足場」に分類すべきであり、また、その対策としてJISを採用すべきではないか。

(理由)

「平成22年8月速報における死亡災害発生状況等の分析」の表3を見れば明らかなように、「屋根、はり、もや、けた、合掌」に起因する墜落死亡災害は、8月7日現在、本年:14人、前年:12人と多い。また、「がけ、斜面、法面」に起因する墜落死亡災害は明示されていないが、平成21年で19人、平成20年で18人と毎年悲惨な件数が繰り返されている。いずれも、労働安全衛生規則により2m以上の高所作業には足場を設置することとなっているにも拘らず設置しなかったことが原因で発生したものであるので、墜落死亡災害の「起因物」としては、「足場」に分類すべきではないか。「起因物」として「足場」と分離させていることは、「足場」を矮小化していることになる。また、これらの対策として、折角制定されたJISA8971「屋根工事用足場及び施工方法」及びJISA8972「斜面、法面工事用架設設備」を積極的に採用すべきでないか。

質問② 足場からの墜落防止措置の分析対象に非労働者が含まれていないことを重大視すべきではないか。

(理由)

平成20年の建設業就業者は537万人であるが、そのうち、非労働者(一人親方・零細事業主等)は100万人にも上る。しかも、非労働者の死亡率は労働者の死亡率の2.8倍(本組合の推計)も高く、危険な作業を余儀なくされている。現に、昨年8月、都内で「手すり先送り方式」を使った建設現場から一人親方が墜落事故によって死亡している。しかし、非労働者の死傷災害は労働安全衛生規則第97条の「労働者死傷病報告」の対象外であり、足場からの墜落防止措置の分析の対象となっていない。その死は「犬死」以外のなにものでもない。

質問③ 「足場からの墜落防止措置の効果検証・評価委員会」の委員として三浦裕二氏を委嘱しなかったのは何故か。

(理由)

三浦裕二氏は、10回に亘って開催された「足場からの墜落防止措置に関する調査委員会」の座長であり、一連の経緯を熟知した最適任者である。

質問④ 「足場からの墜落防止措置の効果の分析」の対象828件は全て公開すべきではないか。

(理由)

 「改正労働安全衛生規則等に基づく足場からの墜落防止措置の効果の分析」(以下、「効果分析」という。)は、「災害の原因」を被災者の「不安全行動」を中心に捉えており、その結果、被災者に一方的に災害原因を押し付ける偏った表現になっている(本組合の分析は別紙参照)。これを元に検証・評価委員会が行われており、何をか言わんやである。よって、公正な検証を行うため、全て公開すべきである。

質問⑤ 労働安全衛生規則第518条、第519条、第563条等に規定する「2m以上」とする高さ規制を見直すべきではないか。

(理由)

「効果分析」の表-3によると、高さ2m未満の足場からの墜落災害は全体の約41%にも達している。イギリスの高所作業規則においては、重症災害の60%が2m未満からの墜落であることを考慮し、2005年(平成17年)4月6日から2m規制を撤廃している。

質問⑥ 一側足場の使用制限を省令化すべきではないか。

(理由)

「効果分析」の表-4によると、一側足場からの墜落災害が全体の21%もありながら、労働安全衛生規則第563条において規制外とされていることから分析対象となっていない。しかし、一側足場を規制外にしていることが、逆に一側足場の安易な使用を招き、墜落災害を増大させている。

質問⑦ 「手すり先行工法」による「二段手すりと幅木の設置」を義務化すべきではないか。

(理由)

・      「効果分析」の「組立解体時における最上層からの墜落」の事例中、「手すり先行工法」を用いた足場で中さんの下から墜落した事例で明らかなように、40cmの隙間があれば人間の体はすり抜けてしまう。

・     ところが、国の直轄工事においては、「手すり先行工法」による「二段手すりと幅木」を設置した足場に直接原因のある墜落事故は発生していない。

・     一方、本年4月に厚生労働省が発表した「建設業における足場からの墜落防止措置の実施状況に係る調査結果」(以下、「実態調査結果」という。)によると、民間工事における「手すり先行工法」の実施率は17%に過ぎない。厚生労働省が国の予算を使って『ガイドライン』等で「手すり先行工法」を指導して7年が経過するにも拘らず、この低レベルである。最早、指導の限界を超えている。

質問⑧ 「手すり先送り方式」は除外すべきではないか。

(理由)

国土交通省においては、「手すり先行工法」のうち、「手すり先送り方式」は実質的に除外している。二段手すりと幅木の機能が確実に確保される保証がなく、特に解体時において墜落の危険性が排除できないからである(質問②の一人親方の死亡事例参照)。

質問⑨ 床材は脚柱とすき間をつくらないように設置することを義務化すべきではないか。 

(理由)

「効果分析」の「通常作業時等における墜落・転落災害」の事例の中に、床材の隙間から墜落した災害がある。「床材は脚柱と隙間をつくらないように設置すること」と安全衛生部長通達で指導されているにも拘らず、遵守されていない。

質問⑩ 「足場の安全点検」を「効果分析」のテーマにすべきではないか。

(理由)

 「効果分析」の「災害の原因」をみると、折角改正省令と安全衛生部長通達によって足場の安全点検の手順が充実されたにも拘らず、「足場の安全点検」の視点はゼロである。しかし、本組合の分析では、「床材緊結不備等」を原因としている事例の全て、また、「不安全行動」を原因としている事例の一部は、「足場の安全点検の不備」が原因である(別紙参照)。

質問⑪ 「足場の安全点検」は有資格者によって実施されるべきではないか。

(理由)

 「実態調査結果」によれば、調査現場の約86%において足場の安全点検が実施され、約51%において「教育を受けた作業主任者等」よって点検が行われていたという。しかし、それにも拘らず本年になって墜落死亡災害が急増しているということは、足場の安全点検が第三者の有資格者によってなされていないことの証左であり、「能力向上教育」を受けた作業主任者は足場組立の当事者であって第三者ではなく、点検の適任者とはいえないのではないか。因みに、本組合の講習会を受講し資格証を受けた「仮設安全監理者」による足場の安全点検件数は7万件に上るが、1件の死亡事故も発生していない。

質問⑫ 検証・評価委員会は、「効果分析」によって改正省令と安全衛生部長通達に基づく墜落防止措置を適切に実施していなかったものが多いと結論付けたことに鑑み、何故、やるべきことをやらなかったのか、また、やらせなかったのか、そこにこそ焦点を当てるべきではないか。

(理由)

 検証・評価委員会の目的は、「改正省令と安全衛生部長通達に基づく足場からの墜落防止措置の効果についての検証及び評価」である。ところが、「効果分析」をみると、分析の視点は専ら「不安全行動」と「安全帯を使用していなかったこと」と「教育の不足」に置かれている。しかし、「不安全行動」という言葉は何ら定義しないまま使っており、単にバランスを崩した場合でも「不安全行動」とし、結果として、墜落の責任を労働者に帰している。やるべきことをやらないで労働者の「不安全行動」と「安全帯を使用していなかったこと」と「教育の不足」に焦点を当てることは間違いであり、これでは何も変わらない。

 因みに、国土交通省では、仕様書と重点対策により「手すり先行工法による二段手すりと幅木」を設置し、監理監督している。そのため、その足場に直接原因のある墜落災害はゼロである。

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